千田有紀は博士論文において次のように書いています(傍線部分):
【戸田・引用】
◎・・・我が国にはこのように旧家を尊び、家系を尊重する風があるが、この家系の尊重とは如何なる事であるか、このように尊重せらるる家系とは如何なるものであるか。それは家族なる団体精神の連続である。家族集団に特有なる団体精神が、成員たる家族員に新陳代謝あるにもかかわらず、常に家族に固有の精神として存続する事である。すなわち家系とは家族精神の連続的存立にほかならない(同書250-251頁)。
◎・・・この家憲とか、家法とか言うものは、全ての家族員を拘束して居る。例えば信玄家法は信玄によって作られたものであるとして、一度それが武田家の家法となったならば、その家法は信玄個人の意志とは離れて武田一族中の他の成員と同様に成員としての信玄をも支配したであろう。このようにして家憲や家法は、個々の家族員の意志とは離れ、客観的の力として家族員を拘束する様になる。而してこのような独立した力、独立した家族員を拘束し得る力をここに家族精神というのである(251-252頁)。
◎我が国民はこの家族精神の永続性を尊重し、その連続を助長するために、家族員相互の関係、及び家族員と他の者との関係に、特有なる形式を定めている(同書255頁)。
◎妻とか、子女とか、養子等は、家族団体を永続せしむるために、それぞれ相応の働きをなす事を家族団体から要求せられている・・・(同書264頁)。
【戸田・引用、終わり】
従って千田氏の上記記述は事実に反する記述です。
【注】
千田氏には全く同一タイトルでありながら、「博士論文」と、「博士論文ではない論文」という、2つの異なる論文があります。博士論文ではない論文は岩波『思想』No.898号に所収されています。当ブログでは上記2つの論文を区別するため、千田氏の博士論文を「千田博士論文」、岩波『思想』No.898号所収の、博士論文ではない論文を「千田岩波論文」と呼ぶことにしています。
つまり
千田氏の博士論文 →「千田博士論文」
岩波『思想』No.898号所収の博士論文ではない論文→「千田岩波論文」
と呼びます。
(注2)戸田貞三著『家族の研究』(大正15年、弘文堂書房)、「七 家系尊重の傾向に就いて」http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1018689